予防と健康レポート

1.はじめに

 授業で「うつ病」と「アスベスト」についてのビデオを鑑賞した。私は何年も前から使われていたアスベストが何故今になってこんなにも話題をさらっているのか、疑問を持っていた。ビデオを見てアスベストに暴露してから中皮腫や肺癌になるまでの潜伏期間が非常に長いことを知り、だからこそ近年話題になっているのだということがわかった。私はこれらの事をもっと詳しく知るために「中皮腫」と「潜伏期間」というキーワードでレポートを作成することにした。

2.選んだキーワード

 中皮腫と潜伏期間

3.選んだ論文の内容の概略

「アスベスト暴露による胸膜中皮腫」

Tアスベストと中皮腫の歴史

アスベストが商業的に採掘され始めたのは19世紀初めごろのイタリアといわれている。その後19世紀後半にはカナダやロシアでクリソタイルが、南アフリカでクロシドライトの採掘が始まり、19世紀末にはアスベストは産業界になくてはならないものとなっていた。

 一方、中皮腫という用語は1930年代には使われていた。しかしこの時代には、まだアスベストとの因果関係は明らかになっていない。1950年代になると、アスベスト肺に合併した胸膜中皮腫や腹膜中皮腫の症例報告がみられる。1965年のSelikoffらによるニューヨークの配管絶縁労働者のコホート調査では、全死亡の6%にあたる22例の悪性中皮腫死亡(胸膜中皮腫6例、腹膜中皮腫16例)がみられた。またHarriesが1968年イギリスの造船所労働者の胸膜中皮腫を報告したことから、世界各国の造船所で調査がおこなわれるようになった。これらの疫学調査より1960年代後半には、アスベスト暴露と中皮腫の因果関係が確立された。

U中皮腫の原因

 中皮腫の自然界における発生頻度は人口100万対1/年程度と極めて少ない。原因の大半はアスベスト又はエリオナイトという鉱物繊維である。アスベストなどの鉱物繊維による中皮腫発生の危険性は繊維の種類によって異なる。危険性の高い方から、エリオナイト、クロシドライト、アモサイト、トレモライト/アクチノライト、クリソタイル、アンソフィライトの順である。アンソフィライトを除く角閃石系アスベストの危険性はかなり高く、クリソタイルの危険性を1とすると、クロシドライトが500倍、アモサイトが100倍とする説もある。

V胸膜中皮腫発症までの潜伏期間

 次ページのグラフはアスベストの暴露期間と、中皮腫発生時期を示したグラフである。灰色の部分がアスベスト暴露期間、右端の濃い部分が発病後の期間である。造船関係、建

 

築関係、その他、女性の順に並べられているが、最初の暴露から発症までの潜伏期間が長く、また暴露終了後から発症までの期間もかなり長い例が多いことがわかる。なお一般的には潜伏期間の平均は40年とされている。

W石綿による健康被害の救済に関する法律

 昨年(2005年)6月末に報道された兵庫県尼崎市のクボタ問題に端を発し、にわかに胸膜中皮腫が脚光を浴びるようになった。被害はこれまでの職業暴露者だけでなく、一般住民にも及んでいた点が明らかにされたためである。その結果、これまでの労災による補償に加えて、労災給与対象にならない患者を救済する目的で「石綿による健康被害の救済に関する法律」が制定され、2006年3月27日から施行された。対象疾患は中皮腫とアスベストによる肺癌である。なおここでいう「中皮腫」には良性腫瘍は含まれない。

 法律の施行後、現在までに新たな2つの問題が生じている。1つは「診断の確かさ」である。中皮腫の診断は極めて難しい。欧米では「中皮腫パネル」を設け、複数の病理医、臨床医などによる検討がなされている国が多い。診断精度の高い情報をもとにした治療、あるいは統計、それに基づく政策などに貢献している。わが国では中皮腫診断の歴史がまだ浅く、診断にばらつきが大きいのが現状である。もう1つは、救済法の受付が労災の場合と異なり、「生前」に限られていることである。臨床的にも病理的にも確定診断に時間がかかる疾患であるので、とりあえずは、疑いの段階で申請するしかないのが現状である。

 「石綿による健康障害」

石綿は単一の鉱物名ではなく、アスペクト比(長さ/太さ)>3以上の繊維性ケイ酸塩からなる鉱物の総称である。石綿の特製として耐熱性、抗張性、化学的安定性に富み、断熱性、電気絶縁性も高いため、各種工業製品に汎用されてきた。

日本では戦時中石綿輸入が途絶されたため、主に北海道や九州でクリソタイルやアンソフィライトが産出されたが、良質でなく収益率も悪かったため、戦後はもっぱら海外の輸入に頼ってきた。

石綿生産量のうちクリソタイルが約90%を占めるが、主にカナダ、ロシア他で生産されている。日本における石綿輸入量は1950年頃から急増し、1974年の35.2万tを最高に、発がん性が問題となったため減少傾向を示した。発がん性の要因として、体内での滞留時間と石綿と組成が問題である。コロシドライトあるいはアモサイトは体内滞留時間が長く、クリソタイルは短い。また、クロシドライトとアモサイトは鉄を含むケイ酸塩であり、この鉄の酸化が発がん性に関係すると言われている。

ヒトに対する中皮腫の発がん性についての研究は、1959年のWagnerらによる南アフリカNorth Western Cape Provinceのクロシドライト鉱山の疫学調査から始まる。その後ヒトに対する発がん性が明らかになったため、1986年には国際労働機関(        ILO)がアモサイトとクロシドライトの原則使用禁止とクリソタイルの安全に使用を決定した。それ以降、欧米各国で石綿使用禁止措置が採られてきた。我が国においても、1975年には石綿吹き付けの禁止、またクロシドライトとアモサイトは1995年に輸入・製造・使用が禁止になった。そして2004年10月からは、代替品のない場合を除いてクリソタイルの建材、摩擦材、接着剤、ブレーキあるいはクラッチ板などへの使用が禁止となったが、依然としてその他の用途には使用されており、早期の全面禁止が求められている。中皮腫についてはその潜伏期間が40年以上であることが全国的な実態調査で判明し、今後患者数は増加傾向を示し、2030年頃にピークが来ることが予想されているため、早期診断および治療体制の確立が望まれる。

 石綿暴露によって発生する疾患としては、肺病変としての石綿肺、肺がん、および胸膜疾患である。胸膜疾患には、悪性腫瘍である胸膜中皮腫と非悪性疾患である良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺、および病態としての胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)がある。中皮腫は胸膜の他、腹膜、心膜、精巣鞘膜に発生する。

 中皮腫とは、先に述べたように胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜から発生する悪性腫瘍であり、石綿初回暴露からおおむね40年を経て発生する。胸膜原発の場合には通常壁側胸膜に発生する。1997年のヘルシンキクライテリアでは、その80%は石綿暴露によって発生すると報告されている。最近の調査では、日本の中皮腫でも74%の症例が職業性石綿暴露によって発生していることが確認された。経気管支的に肺に吸入された石綿繊維が壁側胸膜に中皮腫を発生させるメカニズムは、現在でも明らかになっていない。

 発生部位では胸膜原発が約80%と最も多く、次いで腹膜が20%であり、心膜や精巣鞘膜の中皮腫はまれである。胸膜中皮腫の自覚症状としては息切れや胸痛が最も多く、次いで咳、発熱などである。画像所見では胸水貯留例が80%以上で、腫瘍は肺を取り囲むようにびまん性に増殖する胸膜病変を呈する。そのため、胸膜直下に発生した肺がんとの鑑別が必要である。早期例では胸水貯留のみのこともあり、結核性胸膜炎や原因不明の胸膜炎として経過観察されている場合もあることが分かってきた。また、胸膜中皮腫の場合には初期症状として腹部膨満感が最も多く、次いで腹痛であり、画像上ではびまん性の腹膜肥厚像や腫瘍像が特徴的であるが、女性の場合には卵巣がんとの鑑別が必要である。

1)診断

 胸水

とは血性であることが多いが、がん性胸膜炎とは異なり細胞診による診断率はおおむね30%と低い。また「、胸水中ヒアルロン酸値が10万ng/ml以上である場合には診断価値があると報告されているが、これより低値を示す場合も多い。そのため、確定診断には病理組織学的検査が必須である。特に、胸腔鏡下胸膜生検による診断率は98%であると報告されている。組織型は大きく3型に分類されている。がん腫に類似する上皮型が最も多く約50%、肉腫型が最も少なく18%で、両者の組織型が混じる二相型が32%と報告されている。典型的な二相型中皮腫は比較的診断が容易であるが、その他の2型については鑑別診断が重要である。

2)治療と予後

 治療法としては手術療法、化学療法、放射線療法、対症療法があるが、手術療法以外の治療法では予後は極めて悪い。

手術療法では胸膜肺全摘出術が唯一の根治的な治療である。Sugarbakerらは、本治療法によれば5年生存率が40%であると報告している。全国労災病院で集計した132例中、胸膜肺合併切断を行った場合の生存期間中央値は18.1ヵ月であり、それ以外の治療法に対して有意に予後が良かった。また、平成15年に全国で中皮腫によって死亡した878例の追跡調査では11.4ヵ月であった。一方、化学療法を行った例では生存期間中央値は8.8ヵ月であった。この検討での化学療法では、主にシスプラチン+ゲムシタビン併用療法が行われていた。一方欧米では、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法により有意な効果と生存期間の延長が得られたと報告されており、日本での早期の承認が待たれる。

 平成15年の中皮腫死亡例の予後検討結果では、診断後の生存期間中央値は8.0か月であり、胸膜中皮腫は8.4ヵ月、腹膜中皮腫は3.4ヵ月で、原発部位別で大きく異なることが分かった。また組織型によっても異なり、上皮型が最も良く9.4か月で、肉腫型では4.0ヵ月程度と予後不良であった。そのため、石綿暴露者においては早期病変を見つけることが重要であり、胸水貯留のある石綿暴露者では早期に胸膜鏡を行って確定診断を行うことが望まれる。

4.選んだ論文の内容と、ビデオの内容からの考察

 石綿は柔らかで強靭。また熱や電気の不良導体であることから、保温・耐火にすぐれており、広く工業原料として活用されてきた。そのため石綿暴露を受ける機会は様々な業種で働く労働者ばかりでなく、その家族や工場や鉱山の近隣の居住者にも広がっている。職業性暴露も本人が石綿を使用する場合以外に石綿使用作業場で異なる仕事を行っていた労働者が吸入する間接暴露もある。ビデオでは、クボタの工場付近に住んでいた人が近隣暴露によって中皮腫を発症したという例を見た。中皮腫は暴露量が少なくても発症し、上記の論文によると原因の80%が石綿である。工場から風に乗って飛んできた石綿が、近隣住民の肺に気が付かないうちに入っていたり、洗濯物に付着していたりした、という事は容易に想像できる。

クボタは当時、国内屈指の石綿の輸入会社であり石綿を水道管など様々な工業製品に使用していた。そんな中、日本よりも早くから石綿を使用していた欧米では、アスベストが肺がんや中皮腫に関係しているという事実が明らかになり、それに対する対策がたてられるようになった。クボタも石綿による公害を懸念して、アメリカのマンビル社という石綿を多く取り扱っている会社に社員を派遣し、日本における対応策を考えようとしていた。しかし、日本の石綿の需要がまだ高かったため、結局、管理使用すれば大丈夫であるというあいまいな対策しか立てなかったのである。対策の遅れた主な原因は、石綿は肺がんや中皮腫を発症させるまでの潜伏期間が非常に長いことである。行政も、発がん性があり、他国では使用禁止令が出でいる事を認識していたにもかかわらず、目先の利益に捉われて管理的使用を30年もの間続けていた事には責任がある。

日本における患者数は増加傾向を示し、2030年頃にピークが来ることが予想されている。

早期発見し、胸部CTで胸膜プラークの存在確認を行うことや、石綿小体の存在の確認や石綿小体の定量を考慮し治療を行うことが重要である。

5.まとめ

 石綿と中皮腫の関係、また中皮腫の潜伏期間について調べたが、中皮腫の予後の悪さや、石綿による肺がんや中皮腫の患者数増加は深刻な問題である。石綿関連の疾患に遭遇した場合は、職業だけでなく、昔住んでいた場所の近くに石綿関連の工場がなかったかなど細かな聞き取り調査を行い、正確で迅速な診断をすることが必要だ。また、より的確な治療法を開発する事も大きな課題である。